美術館・博物館での照明を考えて行くときに、必ず議論の対象となるのが作品の保護と鑑賞の矛盾についてです。
作品を少しでも遠くの未来まで残すのであれば、光を当てることなどせずに保管しておく事が最善です。
あくまでも私感ですが、その保管して行くための社会的なコンセンサスを得るためには、社会に広くその作品を知ってもらい、その価値を認めてもらった上で、保管して行くためのコストを負担してもらう事が必要であり、そのために美術館・博物館のような施設で公開しているのかなと思います。ここで鑑賞してもらう必要が出てきます。
光を当てなければなりません。
そうなると、鑑賞できるだけの光を当てつつも、作品の劣化を最小限に抑える工夫が必要になってきます。
私が仕事をしてきた中では、先人の研究や経験の中から許されるとされる照度(明るさ)で作品が十分に見えるような光を作る事を目指してきました。鑑賞者がいるいないに係わらず一定の光を当てているものです。
ある意味、静的な光です。
もっと積極的に光の量をコントロールするやり方もあります。
鑑賞者がいないときには光を当てないというやり方です。
先日訪れたロンドンでは2つの美術館でその様なやり方が実践されていました。
一つは人感センサーを備えた展示ケースで、ケースの前に立つと、明るくなるものでした。
これはヴィクトリア&アルバート美術館です。
12年前に訪れた時にもあったケースでして、ちゃんと仕事をしていました。
もう一つはもっと原始的な仕掛けでして、鑑賞者が見たいときにカバーをめくると言ったものです。
これはウォレスコレクションで見かけました。
私としてははじめて見たものでして、ちょっと新鮮な驚きがありました。
余談ながら、このカバーの革がとてもなめらかでめくる事が心地良く感じます。
鑑賞者がいる/いないに合わせて明るさを変えるやり方は上海の博物館でもありました。
遠目から見ると、そのケースが明るくなったり暗くなったりして少し落ち着かない気もしますが、作品の保護と鑑賞との折り合いを付ける目的としては、積極的に考えても良いやり方だと思います。
いつか私が係わる仕事でもやってみたいと思います。
元が制御系が入ったもののメカ屋ですので、ついつい面倒臭いものを作って見たくなります。
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