展示用照明に必要な特性(演色性、色温度、照度)
前回は光の波長について主に触れましたが、今回は演色性、色温度(調色)、照度(調光)についてお話します。
演色性
前回、ハロゲンランプとLEDの光の波長の違いについて、測定した光の波長の分布をグラフで示しました。光源によって波長の分布が異なるということは、光で照らされる対象の見え方も光源によって異なります。
光によって物体の見え方が変化する事を演色といいます。国際照明委員会(CIE)及びJISで定められている15種類の試験色(R1~R15)を対象として基準となる光で見た時と、評価の対象となる光で見た時の色の違いを数値化したものが演色評価数です。
展示用照明に用いる光は、R1~R8の演色評価数の平均値である平均演色評価数(Ra)とR9~R15の特殊演色評価数によって評価します。平均演色評価数(Ra)は最低でもRa90以上であること、特殊演色評価数はそれぞれ90以上であることが望ましいです。
昨今のLEDは、青色励起型、近紫外励起型いずれにおいても演色性の高い光源が開発されており、展示用照明にも十分対応できる光源となっています。
しかし、実際の照明現場において、対象となる色は試験色と違い無限です。なので、数値として示される演色評価数が絶対というわけではありません。展示対象によっては、鑑賞者の評価が演色評価数と逆転してしまう場合もあります。演色評価数の定義に関しては、LEDの登場とともに新たな見直しも検討されています。
また、演色性が高ければ、色は識別しやすくなります。その結果、より高い演色性をもつ照明光の場合、展示物上での照度を下げても意図する照明効果が得られる場合も多くあります。展示物の保護の観点からも、高い演色性を持つ光源を選択することが重要です。
さらに、展示対象が一定している展示照明に関しては、学芸員など専門家の意見を重視し、現状の演色評価数を参考的に扱い、鑑賞者の実際の評価を重視して光源を選定する場合もあります。
色温度(調色)
ハロゲンランプでもLEDでも、白色光にはさまざまな波長の光が混ざり合っています。白色光の色みを数値化したものが色温度で、単位はK(ケルビン)で表します。数字が大きいほど青白く、数字が小さいほど温かみがある色になります。色温度を調整することを「調色」といいます。
照明の色温度は展示物の見え方に大きな影響を与えます。基本的には、展示品の特徴を考慮しつつ照明光の色温度を選択します。展示用の光源は、2700K~4000Kの間が選択されることが多いです。LEDの場合には、これまでの光源と比べて、色温度の選択範囲が広まり、展示設計のニーズに応えやすくなりつつあります。
照度(調光)
照度は光に照らされた面の明るさの度合いで、単位面積に入射する光束量で表されます。単位はルクス(lux)です。照度を調整することを調光といいます。
展示物の材料や状態によって、許容される照度は異なります。照度ガイドラインとしてはJISや照明学会(現在は公式に示されてはいない)、ICOM(国際博物館会議)等で一定の基準が設けられています。
照明学会 屋内照明基準(博物館・美術館) 抜粋
展示物種類
推奨照度(lx)
光色
演色性
光に非常に敏感なもの
染色品、衣装、タピストリー、水彩画、日本画、素描、手写本、切手、印刷物、壁紙、染色した皮革品、真珠、自然史関係標本
○50
暖、中
Ra>90
光に比較的敏感なもの
油彩画、テンペラ画、フレスコ画、染色していない皮革品、角、骨、象牙、木製品、漆器
○150
暖、中
Ra>90
光に敏感で無いもの
金属、石、ガラス、宝石、
エナメル
○500
暖、中、涼
Ra>90
ギャラリー全般
50
暖、中、涼
90>Ra>80
映像、光利用の展示物
10
暖、中、涼
90>Ra>80
備考1.「光に非常に敏感なもの」については年間積算照度を120,000(lx・h)以下、
「光に比較的敏感なもの」については年間積算照度を360,000(lx・h)以下にする事が望ましい
2.表中の○印は、局部照明で得ても良い。
3.光色の暖、中、涼の色温度は、暖が3300K以下、中が3300K~5300K、涼が5300K以上である。
美術館・博物館の展示物に対する各国の推奨照度基準
ICOM(仏)
(1977)
IES(英)
(1970)
IES(米)
(1987)
光放射に非常に鋭敏なもの
織物、衣装、水彩画、つづれ織、切手、写本、泥絵の具で描いたもの、壁紙、染色皮革など
50lx
出来れば低い方がよい
(色温度:約2900K)
50lx
120000
lx・h/年
光放射に比較的敏感なもの
油絵、テンペラ絵、天然皮革、角、象牙、木製品、漆器など
150~180lx
(色温度:約4000K)
150lx
180000
lx・h/年
光放射に敏感でないもの
金属、石、ガラス、陶磁器、ステンドグラス、宝石、琺瑯など
特に制限無し
但し、300lxを超える照明を行う必要は殆どなし
―
200~500lx
ICOM:International Council of Museum
IES(英):Illuminating Engineering Society, London
IES(米):Illuminating Engineering Society, New York
以上の光の波長、演色性、色温度、照度が展示用照明に必要となる基本的な特性です。これを踏まえて、次回は展示用照明の種類についてご紹介します。
[参考文献]
関英雄監修.LED照明のアプリケーションと技術-光学設計・評価・光学部品-.シーエムシー出版,2012,255p